【舛添要一連載】映画『オッペンハイマー』が日本公開 同作は「核開発史」知る上で役に立つ

【国際政治の表と裏】アカデミー賞を総なめにした映画『オッペンハイマー』がようやく日本公開される。

2024/03/24 06:00

オッペンハイマー

今年のアカデミー賞の授賞式は3月10日(日本時間11日)にハリウッドで行われたが、『オッペンハイマー』が、作品賞、監督賞、主演男優賞など7部門でオスカーに輝いた。

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■「バーベンハイマー」

この映画は、人類初の原子爆弾の開発に成功した物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの物語である。原爆がもたらした破壊力に愕然としたオッペンハイマーは、その後は水素爆弾の開発に反対するようになり、栄光の座から転落する。

この映画は全米で昨年7月に公開されたが、日本では半年以上遅れて、この3月29日に公開される。オッペンハイマーの手によって完成した原爆が、直後に広島と長崎に投下されたことから、日本人の国民感情に配慮してからか、大手配給会社が公開に手を挙げなかったのである。これまでは、話題作はアメリカとほぼ同時に公開されていた。

全米で公開されたとき、同時期に公開された女性の権利をコメディ仕立てにした『バービー』と組み合わせて「バーベンハイマー」という造語まで作られたのも不利な状況に輪をかけた。

さらに、映画では、広島、長崎での原爆の惨禍については十分に描かれておらず、それもまた批判を呼びかねないと懸念されたのであろう。

ユダヤ人であるオッペンハイマーは、ナチスよりも先に原爆を完成させねばならないという決意であった。

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■マンハッタン計画

第二次世界大戦において、交戦国は新兵器の開発に鎬を削った。原子爆弾がそうである。

20世紀になって、アインシュタインらによって原子物理学が進歩し、1938年にドイツのオットー・ハーンとフリッツ・シュトラースマンが核分裂を発見した。この核分裂を利用した兵器の開発が原子爆弾の誕生につながる。

ヨーロッパではヒトラーがユダヤ人を迫害したため、優秀なユダヤ系の物理学者がアメリカに亡命した。ナチスの反ユダヤ主義は、アインシュタインをはじめとする学者をドイツから奪うという皮肉な結果をもたらした。

アインシュタインは、フランクリン・ルーズベルト大統領に手紙を書き、原子力を利用すれば強力な新型爆弾が開発できる可能性を示唆した。アメリカは、核兵器の開発でドイツに先を越されるのを恐れて、1942年、原爆開発のため「マンハッタン計画」を始動させた。

科学者のリーダーには、オッペンハイマーが選ばれた。原爆開発チームは、ロスアラモス国立研究所で研究開発を続け、1945年7月16日、ニューメキシコ州で世界初の核実験(トリニティ実験)に成功する。そして、直後の8月6日に広島に、9日に長崎に原子爆弾が投下されたのである。

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■原爆開発成功が歴史を変えた

第二次世界大戦は、ヨーロッパでは1945年5月に連合国の勝利で終わったが、太平洋戦争まだ続いていた。

ソ連のスターリンは、2月のヤルタ会談での密約に従って、対日参戦準備を進め、4月5日には、日ソ中立条約の不延長を日本に通告した。

7月17日、ベルリン郊外のポツダムで、チャーチル首相、トルーマン大統領、スターリンによる協議が始まった。ポツダム会談である。

太平洋戦争で日本と継戦中のアメリカは、ソ連が対日戦に参加してくれることを希望していた。ところが、先述したように、7月16日にアメリカは原子爆弾の実験に成功し、それがトルーマンに伝えられた。トルーマンは、原爆を使えば、ソ連の助けなしに日本を屈服させることができると考えるようになる。

日本がソ連を通じた和平工作を行っているとの情報を得たアメリカは、その工作が実現する前に日本に無条件降伏を突きつけることが必要だと判断して、7月26日にポツダム宣言を発表したのである。

トルーマンは、日本がすんなりとポツダム宣言を受託するとは思っておらず、さらなる圧力手段として、8月6日に広島に、9日に長崎に原子爆弾を投下した。そして、8月15日、日本は無条件降伏した。

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■プーチン大統領による核の威嚇

第二次世界大戦後、アメリカに続いて、ソ連、イギリス、フランス、中国と原爆開発に成功した。さらに、今ではインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮も核保有国となっている。

そして、ウクライナ戦争では、プーチン大統領は、核兵器使用の可能性に度々言及し、西側を牽制している。

そのような国際情勢の下で、映画『オッペンハイマー』を観ることは、核開発の歴史を知る上でも役に立つ。

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■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「オッペンハイマー」をテーマにお届けしました。

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(文/舛添要一

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