【舛添要一連載】イギリス領北アイルランドで初の「統一派」首相が誕生 連合王国は今後どうなる?

【国際政治の表と裏】イギリスのEU離脱(Brexit)から4年が経過した。国内では多くの禍根がいまだ残っており…。

2024/02/11 04:30

イギリス

イギリスを構成する北アイルランドの首相に、初めてアイルランドとの統合を掲げる政党の幹部が就任した。それはどんな意味を持っているのか。

【関連記事】舛添要一氏連載『国際政治の表と裏』、前回の記事を読む


関連記事:終わらないウクライナ戦争、核ミサイル開発… 「第二次世界大戦の遺物」国連は機能しているか?

■連合王国イギリス

2月5日、イギリス王室は、先月前立腺肥大の手術を受けたチャールズ国王に癌が確認され、治療を開始したと発表した。

イギリスは王制であり、正式名称は「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)」である。イギリスは、イングランド、ウエールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの地域から成っている。

アイルランド島は12世紀にイギリスの支配下に入ったが、イギリスはプロテスタントの国であり、カトリックの多いアイルランドでは、19世紀になると、カトリック教徒が自治権拡大を求めるようになった。

関連記事:犬は嗅覚で人間のストレスを感知すると判明 介助やセラピー犬にさらに高まる期待

■アイルランドの分割

20世紀にはシン・フェイン党を中心に独立運動が激化し、アイルランド共和国軍(IRA)が武装闘争を開始した。1920年、ロイド・ジョージ内閣がアイルランド統治法を成立させ、北アイルランドはイギリス領とし、それ以外の地域は高度の自治領とした。

1921年にはイギリス・アイルランド条約が締結され、南部26州がアイルランド自由国として独立した。北部6州はイギリス領となった。

しかし、北アイルランドでは、イギリス派とアイルランドの完全独立を主張する勢力の内戦が続いた。第二次世界大戦後の1949年には南部26州がアイルランド共和国として正式に独立した。

12世紀以降、北アイルランドにはイギリスからプロテスタントが流入しており、プロテスタントが多数派で、英国統治の継続を求めてきた。彼らは、ユニオニスト(英国派)と呼ばれる。一方、少数派となったカトリックは、イギリスからの分離・アイルランド共和国への併合を主張し、ナショナリスト(共和派)と呼ばれる。

現在の政党は、前者が民主統一党(DUP)、後者がシン・フェイン党である。EUとの関係については、前者が離脱、後者が残留を支持する。

関連記事:【舛添要一連載】「歴代最年少」「同性愛者」のアタル氏を新首相に任命、マクロン仏政権立て直しなるか

■両派の対立

両勢力による対立は、悲惨な流血の惨事を生み、第二次世界大戦後も1969年に紛争が始まり、爆弾テロなどを含む激しい戦闘が続いた。

1998年4月10日にイギリス政府とアイルランド共和国政府の間でベルファスト合意が結ばれ、ユニオニスト、ナショナリストの両派により構成される自治政府が成立し、和平に至った。

しかし、両派の対立によって、それまでに約3500人が死亡している。カトリック系のアイルランド共和国軍(IRA)のテロ活動はよく知られている。

2016年6月23日に行われた国民投票で、イギリスはEUから離脱(Brexit)を決めた。そのため、イギリスと北アイルランドの間の物流が複雑化し、これにDUPが反発し、2017年1月に自治政府は機能を停止した。しかし、2020年1月には、自治政府の再開が決まった。2022年5月の北アイルランド議会の選挙ではシン・フェイン党が第一党に躍進したが、DUPが組閣に抵抗し、政治空白が続いてきた。

舛添要一『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』【Amazon】

次ページ
■自治政府の復活