アメリカと中国の熾烈な覇権争い、「世界システム論」から見た次なる覇権国は…

【舛添要一『国際政治の表と裏』】米中の対立がより一層強まっている。「世界システム論」を通して見ると、今後の覇権国がより鮮明に浮かんできて…。

2023/06/26 06:00

■世界システム論

ウクライナへのNATOの武器支援が続くかぎり、ロシアの全面勝利という形で戦争が終わることはまずあるまい。ウクライナの全面勝利という形も、ロシアが核大国であることを考えると、予想できない。停戦の時期、その態様も分からないが、世界システム論を援用すると、頭の整理ができる。それによれば、近世以降の世界システムの変遷は、4つの特色がある。

第1は、ほぼ100年の周期で覇権国が交代するということである。

第2は、ナンバー・ワンである覇権国の支配に対して挑戦するナンバー・ツーの国が必ず存在するということである。しかし、覇権国にチャレンジしたその挑戦国とは別の国が、次の次期にヘゲモン(覇権国)の座を占めることになる。

第3は、世界の覇権の交代の契機が世界的規模での戦争であるという考え方である。その時代の軍事大国すべてを巻き込むような戦争が、ほぼ30年間続くと、覇権国が入れ替わる。別の表現をすれば、「30年戦争」が国際秩序を変えるという。

第4は、海軍力を国力の指標としていることである。第二次世界大戦までは、海軍力をほぼ経済力と正の相関関係にあり、この指標を基準に世界各国の国力順位づけを行っても現実からさほど乖離することはなかった。


関連記事:シンガポールで中国が本音を暴露 「台湾は核心的利益の中の核心だ」

■この理論でいくと2045年頃…覇権は中国に

世界システム論を2023年の今日に適用すると、まず第2番目の論点であるが、覇権国はアメリカであり、ウクライナに侵攻したロシアが挑戦国である。しかし、このロシアではなく、別の国、つまり、中国が次期の覇権国となる。第一次、第二次世界大戦で、イギリス(覇権国)にドイツ(挑戦国)が挑戦したが、次の覇権国になったのはアメリカであった。それと同様なことが起こりつつある。

第1番目の論点の100年周期であるが、パックス・アメリカーナが成立したのが、1945年、それから100年は2045年である。習近平は、中華人民共和国樹立から100年後に世界一の大国になることを目指して、国力を増強している。覇権国がアメリカから中国に交代する。つまり、パックス・アメリカーナからパックス・シニカに変わる。

第3番目の「30年戦争」であるが、2022年2月に始まったウクライナ戦争は、実は2014年のクリミア併合から始まっていたと考えると、30年間、台湾有事も含めてこのような戦争が続くことが予想される。その結果、アメリカの国力は低下し、2045年頃には、覇権国が中国に移行する。

第4番目の海軍力については、中国が猛烈な勢いで軍拡、とくに海軍力の増強を図っていることは周知の通りである。中国は、国産空母も動員して台湾海峡で軍事演習を行っている。

以上が世界システム論から見た30年後の世界であり、中国の天下となる。そのときに、日本は、アメリカの属国から中国の属国となって生き残るしか道はないのかもしれない。


関連記事:習近平国家主席がロシア訪問でプーチン大統領と対談か 中露関係の行方は

■執筆者プロフィール

舛添要一


Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「米中覇権争い」をテーマにお届けしました。

・合わせて読みたい→中国がウクライナに提示した仲裁案 国際情勢を破壊する恐れも

(文/舛添要一

舛添要一氏新著『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』【Amazon】