辛口ながら辛さを感じさせない『越乃景虎』 豪雪地帯・栃尾の老舗蔵にその理由を探る

名将・上杉謙信の名「長尾景虎」にちなみ、超辛口の酒で知られる。

■自然の恩恵を味方につけて

越乃景虎

諸橋酒造の酒造りは、雪国新潟きっての低温環境に加え、原料となる米や水にも恵まれている。 栃尾は、山の斜面がどこも丁寧に開墾され、全国屈指の棚田地帯。この棚田から良質の米が採れる。

水は自社敷地の井戸から汲み上げる天然水。そして全国名水百選に選ばれている「杜々の森(とどのもり)」の湧水

この二つを仕込み水にするが、いずれも硬度0.47の超軟水。不純物が少なく蒸留水のようで、発酵させるのが困難とされるが、優しい飲み口の辛口酒を造り出している。

「原料米、仕込み水は酒質を決める大切なものですから慎重に選びます。淡麗でスッキリした味わいの中に、柔らかさを感じるのは仕込み水を生かした造りだからです」と、田中製造部長が実感をもって話してくれた。

「香り穏やかでスッキリとキレよく、辛口でありながら辛さを感じさせない」と評価されるこの蔵の酒には、雪深い土地で育まれた仕込み水が大きく影響していた。

実際、日本酒度が+12もある超辛口でさえ、シャープなキレ味で締めくくるものの、口当たりはまろやかに感じられる。

さらには、蔵近くの山中にある横穴洞窟を天然貯蔵庫に利用し、一部の商品を保管している。温度と湿度の一定した洞窟に寝かせると、酒がゆるやかに熟成して独特の風味を生み出すという。 こうして多くの自然の恩恵を味方につけた酒造りが、諸橋酒造では行われている。


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■造り手の自己満足ではなくお客様の満足を

越乃景虎

製造部長として、先代亡き後、蔵の味を守っていくもうひとつの、そしてある意味、とても重要な立場となった田中政之さん。170年間の歴代杜氏の後を受け、若いながら強い覚悟で『越乃景虎』の造りを指揮している。

製造工程の中で最も重視していることを尋ねると、「原料処理です」と即座に返ってきた。

「いい蒸米を作ることが基本だと思います。『一麹、二酛、三造り』といわれる通り、全ての工程に蒸米がかかってきますから」

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